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 かつての技術立国日本の面影は、どこへ行ってしまったのだろう?日本の技術水準の危機を感じさせる悲劇が、また起きてしまった。雪印食中毒事件である。
 そもそも人が毎日飲食する物を取り扱う産業は、安全・衛生面に細心の注意を払って操業していたはずであった。厚生省もHACCP(ハサップ、総合衛生管理製造過程)承認施設として、お墨付きを与えていた。それが全く役に立たなかったことになる。企業内部での安全・衛生基準は、消費者の安全を守れなかったのである。
 そればかりではない。7月5日の記者会見で雪印側は、下痢などのクレームに対し「黄色人種というか黒人も牛乳を飲むと下痢が起きる。下痢の症状があると言われても、それとこれが関係あるのかどうなのか、今もそうだとは言い切れない」と発言し、消費者から強烈な批判をあびることとなった。監督すべき側の官庁も及び腰であった。大阪市の助役は「食中毒の公表は、少しでも早い対応が求められるのは当然だが、科学的根拠や客観的判断がなければ無用な社会的混乱を引き起こす」と、公表時期が遅れた言い訳をした(7月17日)。このように、消費者の生命に直結する情報でさえも、決して迅速に公開されはしないことが、またもや明かとなったのである。薬害エイズを巡る凝固因子製剤での教訓が、残念ながら、ここでは生かされていない。幸いなことに、雪印乳業に対しては「消費者をバカにしている!」との批判が集中し、雪印製品の全面撤去に踏み切るスーパーが相次いだ。
 人間が営む行為に、間違いが全く無いなどと期待することは、およそ非現実的である。私達は常に過ちを犯す危険性を知っている。だからこそ情報の公開が必要なのであり、一人一人の消費者による監視が必要である。そうすることで同じ過ちを繰り返す危険性をゼロに近づけることが可能になる。私達が必要としているのは、机上の完全無欠な管理基準などではない。誤りを繰り返さないための生きたシステム作りなのだ。
 ところで、脳循環・代謝改善剤に典型的に現れた「全般改善度」問題は、今の日本の薬剤認可システムに根本的な欠陥があることを明らかにした。実は、この様な役に立たない薬剤を世に送り出すシステムが大型薬害や医療被害の発生土壌となっている。薬害オンブズパースンが取り組んでいるのは、この欠陥システムを消費者サイドの視点から改革することである。消費者サイドから見た科学的根拠や客観的判断を明示することで、今、着実に成果をあげつつあると思う。そして、この様な批判的監視活動こそが、真の意味で技術の発展に貢献していくであろうことを、私は確信している。

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