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 厚生省医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構は、98年8月、92年7月に死亡した男性のケースについてトリルダンによる死亡を認定して遺族年金等を支給することを決めた。被害者はアレルギー性鼻炎の治療のために医師に処方されたトリルダンを服用し続けて死亡したのだった。
 私たちが、97年12月に厚生省と製薬企業(ヘキスト・マリオン・ルセル社)にトリルダンの危険性を理由とする使用制限と、喘息治療薬としての有効性への疑問から喘息治療薬としての承認取消・販売中止を申し入れていたが、このときすでに事件は起こっていたのだ。私たちは、この死亡事件をふまえて再度同様の要請を厚生省と製薬企業にした。
 製薬企業は相変わらず「注意書きを守って使用するかぎり問題ない」「当時の治験でOKが出たのだからとやかく言われる筋合いではない」という態度。厚生省医薬安全局安全対策課の職員は「97年以降、製薬企業は対策として患者向けの説明書を出している」と言う。あれ、そんなのあったっけ。製薬企業ではそんなこと言ってなかったぞ。
 製薬企業から厚生省が指定した文書を送ってもらった。『トリルダンをお飲みになる患者さんへ』という葉書大二つ折りの小さな説明書。そこには副作用の内容についての説明は一切なく、「つぎのような方は医師にご相談ください」として、「心臓の悪い方」「肝臓の悪い方」「血液透析を受けている方」としているのみ。死亡した男性には心臓に問題があった。しかし自覚症状はなかった。この説明書ではやはり死を免れない。
 患者向けに詳しい説明書を作ると患者が服用を控えるようになり治療に支障を生じるという懸念がないではない。しかし、そこをきちんと説明するのが医師の役割であり、その情報を提供するのが無数の人に薬剤を供給する製薬企業の責任ではないか。
 トリルダンの問題は新たな展開を始めている。

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