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ゴーストライターによる医学論文作成が裁判資料から明らかに

2009-09-30

[キーワード: ワイス(株)、医学論文、ゴーストライター、ホルモン補充療法]

 2007年5月7日(※1)と2009年6月23日付注目情報(※2)では、医学論文におけるゴーストライター問題に関連した論文を紹介した。今回とりあげるのは、2009年1月にファイザー株式会社に買収されたばかりのワイス株式会社(以下、ワイス社と略)がゴーストライターを雇い、自社製品(ホルモン補充療法剤)に関連した医学論文を作成していたというブルームバーグ(米国にある経済・金融情報の総合情報サービス会社)のニュース記事(※3)内容である。
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 ワイス社のホルモン補充療法剤であるPrempro(日本製品なし)とプレマリン(エストロゲン製剤)に対しては、服用により乳癌などを発症したとして米国では5,000件を超える訴訟が起されている。ブルームバーグの記事では、これら訴訟に関連して裁判所に提出された文書から、少なくとも40報のホルモン補充療法に関する論文が、ワイス社に雇用されたゴーストライターにより書かれていたことが明らかになったとしている。実際には、ワイス社の依頼によりDesignWrite社、PharmaWrite LLC社などの医学コミュニケーション会社のライターが論文を作成し、著者に名を連ねる医師のリクルートも行っていたというものである。ワイス社からDesignWrite社に対しては、1論文あたり25,000ドル(約230万円)が支払われたとされているが、著者に名を連ねた医師に対する報酬額は明らかになっていない。
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 更年期障害の症状改善のためのホルモン補充療法剤が女性の乳癌を増加させる一因となっていることについては、2002年には米国での研究結果が報告されている。またその後、疫学研究などの結果からも明らかとなり、今日では医学的コンセンサスとなっている。一方、ワイス社のホルモン補充療法剤は、2002年までで既に20億ドル(約1,860億円)の売り上げを達成していた。そして、研究によりホルモン補充療法剤と乳癌との関連が指摘された2002年から1年以上経過した2003年においても、ワイス社の製品に好意的な、ホルモン補充療法剤の有効性と安全性を支持するレビュー論文が発表されているが、この論文もゴーストライターによるものとの指摘がなされている。
 今回ご紹介した話題は、医学論文におけるゴーストライターの存在とそれを利用した製薬企業による不適切な論文作成の問題であるが、そこには自らが執筆していないにも関わらず、安易に著者として名を連ねる医師・研究者が多数いるという事実を忘れてはならないだろう。むしろ、そのような医師・研究者の見識も問われるべきではないだろうか。
 なおゴーストライターなるものの存在は、医学論文作成においてどの程度浸透しているのか、日本での状況はどうかなどは明らかにされていない。また、メディカル・ライティングという職業分野は日本国内においても定着しつつあり、医学論文作成、中でも臨床試験論文においては、メディカル・ライターが論文作成の技術的サポートの役割を担うことで論文の科学性・正確性がより高められているという意見もある。今後は、許容されるメディカル・ライターと許容されないゴーストライターの峻別が求められるのではないだろうか。 (Y)