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 2018年3月、当会議は、海外4カ国からHPVワクチンの被害者の母である被害者団体の代表を招いて国際シンポジウムを開催した。このとき、彼女たちは、自分たちは、「反ワクチン」主義者ではない、国が勧めるワクチンは全部娘に打たせてきた、だからHPVワクチンも接種して被害にあったのだということを強調していた。被害者が指摘しているのは、あくまでHPVワクチンの問題であって、ワクチン全般を否定しているわけではないにもかかわらず、「反ワクチン」というレッテルを貼られ、非科学的主張をして社会に害をもたらす人々であるかのように攻撃されているからだ。日本でも同様である。

 ところで、ツイッター社は、ワクチンに関してより信頼できる情報が表示されるように、新たな措置を開始する旨を発表した。ワクチンに関連するキーワードで検索をした際は、信頼できる公衆衛生機関(日本では厚労省)の情報を最上位に掲載する、ワクチンに関して誤った情報へ誘導する可能性が高いキーワードは検索候補に表示されないようにする、ワクチン忌避主義的コンテンツの人為的・操作的拡散をブロックする等の対応をとるとしている。そして、実際、日本でも2019年の5月頃より、HPVワクチンの被害を伝える被害者のツイッターが制限された(その後、一 部では制限が解かれたとも聞くが、ツイッター社の前記発表が撤回されたわけではない)。

 しかし、既に述べたようにHPVワクチン被害者を、「反ワクチン」あるいはワクチン忌避主義であるとするのは誤りである。また、HPVワクチンの危険性を指摘することは、ツイッター社が自ら定める「ツイッタールール」が列挙する場合、つまり、暴力、テロ、児童の性的搾取、虐待・嫌がらせ、ヘイト行為、自殺または自傷行為、アダルトコンテンツ、違法行為等のいずれにも該当しない。制限の対象となる者に対する適切な告知手続もとられておらず、説明責任も果たされていない。

 ツイッター社は、この措置は、ワクチンについての「信頼できる公衆衛生情報」を提供していくためだと説明しているが、公衆衛生情報の信頼性の有無は、ツイッタールールで列挙されている上記の行為類型とは明らかに質が異なり、そもそもツイッター社が判断できるような性質のことではない。他のSNSでも同種の対応が始まっているが、SNSは、今や公共性をもった社会的なインフラのひとつである。しかも、権力や財力をもたない人々、製薬企業のように宣伝料を払って情報を広めることができない人々の声を伝える貴重なツールである。HPVワクチン被害者の声や批判的見解を排除するのはSNSの自殺行為と言ってよい。倫理的にも、憲法が保障する表現の自由との関係でも問題である。

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