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 営利企業である製薬企業は、あの手この手で薬を売ろうとする。薬害を引き起こしたサリドマイド剤もかつては「妊婦も飲める睡眠薬」という宣伝で大々的に販売されていた。

 それに歯止めをかけるのが処方箋である。医師は、目の前の患者にその薬が有用であるかどうか(有効性が副作用リスクを上回るかどうか)を見極めて、処方箋を書くか書かないかを決める。それを薬剤師がダブルチェックして患者は守られているのである。いわば製薬企業のマーケティングから患者を守る“防波堤”なのだ。では日本の医師が書く処方箋は、その役割を果たしているだろうか。

 それがかなり疑わしいことを、2018/2019のインフルエンザシーズンに日本の医療界で起きた出来事が明らかにした。抗インフルエンザ薬ゾフルーザが、他のあらゆる高額医薬品を抑えて2019年1月の銘柄別売り上げNo1を獲得。シーズン通じてのゾフルーザ投与患者総数は推計約780万人に上ったのである。実に日本人の16人に1人に処方された計算になる。
 
 これは驚くべき数値だ。というのも、ゾフルーザの処方を慎重にするに十分な情報が流行シーズンに入る前にあったはずだからだ。添付文書には、効果は既存薬タミフルとほぼ変わらないのに、耐性を持つ割合が12歳以上で約10%、12歳未満で約23%と異常に高かったこと、そうした耐性獲得例では、投与5、6日後にプラセボ群よりもウイルス量が増加していた=つまり飲まない方がましだった=、ことが掲載されていた。

 安全性への懸念もあった。発売直後の3万7千人への投与実績をみると、因果関係は不明なものの2人の死亡例が報告されていた。タミフル投与後の死亡報告が377万人中7人だったのに比べ、実に29倍の高率である。

 ところが、この薬がぶっちぎりのベストセラー薬になったのである。「新しいメカニズムでウイルス増殖を抑える」「1度の内服で治療が完結する」という製薬企業の宣伝がその原動力であったことは想像に難くない。

 当会議では、国と製薬企業に対し、ゾフルーザの販売の中止と、ゾフルーザに適用された先駆け審査指定制度の手続き厳格化を求める要望書を提出した。詳細はそれをお読みいただきたいが、有効性がさほどでもなく耐性や安全性への強い懸念がある薬の名前が、多くの患者の処方箋に書かれてしまう現実を見るにつけ、当会議の役割がますます重要になっていると感じる。

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