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 2018年11月、東京高等裁判所は、ノバルティスファーマ株式会社(ノ社)が製造販売する高血圧治療薬ディオバン(一般名バルサルタン)をめぐる刑事事件について、ノ社とその従業員に対し、一審と同様、無罪とする判決を言い渡した。

 ディオバン事件は、2002年以降、京都府立医科大学を含む5大学の臨床試験において、ディオバンが既存の降圧剤より脳卒中などの合併症の予防効果が優れているとする結果が発表され、ノ社はこれをもとに大規模なプロモーションを行い大ヒット薬となったが、後に、これらの臨床試験はノ社の資金援助で行われ、統計解析にノ社の社員が関与して不正なデータ操作等がなされていたことが判明したという事件である。

 起訴されたのは、京都府立大学で行われた臨床試験のサブ解析に関し、虚偽の図表等を掲載した論文を科学雑誌に投稿し、雑誌社のホームページに掲載した行為であり、これが、虚偽の広告や記事の流布を禁じた薬事法66条1項に違反するというものであった。

 高裁判決は、ノ社らの関与によって統計データの操作が行われたこと、さらに論文の掲載についての関与も認めた。にもかかわらず、無罪としたのは、薬事法66条1項が禁止する「広告」該当性である。この判決構造は基本的に一審と同様である。

 薬事法が規制する「広告」については、平成10年の行政通知によって「広告3要件」、すなわち、仝楜劼鰺彊する意図が明確であること、特定医薬品等の商品名が明らかにされていること、0貳命佑認知できる状態であること、を満たすことが必要であるとされてきた。

 判決は、本件は、△鉢を満たすが、,慮楜厖彊意図が認められないとしたのである。判決は、学術論文の体裁さえとれば規制対象外となるわけではないとしつつ、本件のサブ解析論文は、体裁や内容、査読審査を経ていること等を考慮すると、実質的にも学術研究報告であり、被告会社らの関与はプロモーション活動の一 環ではあるが、広告の「準備行為」であって直接顧客誘引の手段とする意図は認められないとしている。

 しかし、本件の事実関係を総合すれば、顧客誘引の意図は認められ、これを広告準備行為にすぎないとした認定は実態を見誤った不当なものと言わざるを得ない。もっとも、広告3要件による広告の定義のあり方が、解釈適用の疑義を生む原因ともいえ、判決も立法措置による対応に言及している。

 今国会で審議される薬機法改正案には、広告規制違反について課徴金制度が設けられる見通しであるが、広告の定義の見直しは含まれていない。製薬企業の広告宣伝の実態を捉えた規制となるよう、広告の定義を立法的に見直すことが必要である。

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