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 厚生労働省が2019年3月に通常国会への薬機法改正案提出を目指し、厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会で検討された「とりまとめ」の文書が2018年12月25日公表された。

 日本では薬害が繰り返され、薬害訴訟を契機に、薬害防止のための規制強化が薬事法・薬機法改正を通じなされてきた経緯がある。2010年4月には厚生労働省の「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」が「薬害再発防止のための医薬品行政等の見直しについて (最終提言) 」をまとめた。

 それから9年が経過した。今回の改正論議ではテーマの第一に、「高い品質・安全性を確保し、医療上の必要性の高い医薬品・医療機器等を迅速に患者に届ける制度」が掲げられた。「迅速に患者に」を理由にこれまでにない大幅な規制緩和を進めようとしている。これらは厚生労働省がかかげる「医薬品産業強化総合戦略」の「薬事規制改革等を通じたコスト削減と効率性向上」の目標と連動したものである。

 しかし医薬品等の承認において、有効性・安全性の確保と迅速な供給とは相反する関係にある。「とりまとめ」は「安全対策を前提」「安全性を確保し」「安全対策の充実」の言葉を繰り返すが、安全性確保の具体的施策については希薄である。

 今回の改正では、現在法律に基づかずに実施されている「医薬品条件付き早期承認」「先駆け審査指定」両制度の法制化が目指されている。前者には、再生医療等製品の「条件及び期限付き早期承認制度」が先行している。条件・期限を付して早期に仮承認し、市販後期限内に有効性・安全性の検証的臨床試験を行い本承認を得る制度である。その第一号のハートシートが期限内に検証する見通しが立たず最近期限が延長された。今回の「医薬品条件付き早期承認制度」はこの市販後の検証試験を実施せず、リアルワールドデータと呼ばれる観察研究データでの確認でよいとする世界で最初の制度である。欧米では医薬品承認に用い得るか論議され始めた段階である。非常に少ない有効性・安全性データで正式承認して販売し、市販後の検証試験も実施しなければ、遅かれ早かれ薬害が起こることが危惧される。

 2018年10月、法律に基づかない条件付き早期承認制度の適用第一号として抗がん剤ローブレナが承認された。その承認条件の第一はリスク最小化計画の実施だが、計画書がインターネットに掲載されたのは市販後であった。なお、本剤は日本に次いで米国でも早期承認されたが、米国は検証試験での有効性・安全性の実証を本承認の条件として求めている。

 国会に提出される薬機法改正案と、引き続き目指されている、通常の新薬承認の場合でも検証的臨床試験を行わなくともよいとする規制緩和に、監視を強める必要がある。

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