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 コクラン(Cochrane)は、ランダム化比較試験 を中心に、臨床試験を広く収集して分析するシステマティック・レビューを行う活動をしている組織です。1992年から、世界各地で研究者が自発的に集まって活動を行ってきました。

 そのコクランで、2018年9月に、コクランの共同創設者でもあり、著名な研究者であるピーター・ゲッチェ(Peter Gøtzsche)教授が、理事を解任されただけでなく、除名されるという事件が起きました。理事会は13名ですが、ゲッチェ氏と棄権1名を除いた11名のうち、賛成は6名、反対が5名でした。この採決の後、4名の理事が抗議して辞任、その後さらに2名が辞任し、残った6名の理事で、ゲッチェ教授の反論を審議して最終的に除名を決めたのです。除名の根拠となった調査報告書なるものは、現在も公表されていません。

 この出来事はコクランを知る多くの人に衝撃を与えました。コクランは2013年にマーク・ウィルソン(Mark Wilson)がCEOに就任した後、企業に親和的になったと指摘されています。除名騒動の背景には、利益相反の制限を緩め、資金調達に注力し、CEOと理事会に権限を集中させて組織運営をしていこうとする理事たちと、これをコクランの精神と倫理に反する商業化であると批判するゲッチェ氏らとの対立がありました。

 HPVワクチンをめぐる論争は、そうした倫理的な対立の象徴でもあります。コクランでは、2018年5月に、HPVワクチンを支持するレビューを出していますが、このレビューは、その内容、執筆者の利益相反、プレスリリースのあり方など、多くの点で深刻な問題を抱えており、私たちが知るコクランのレビューとは思えないものでした。薬害オンブズパースンではこれを批判する見解を出しましたが、ゲッチェ氏も批判論文を公表していました。

 この除名問題をめぐっては、抗議声明を出してコクランを脱退した地域センターもあります。コクランは歴史的分岐点に立っています。この問題は、今の医薬品をとりまく問題の象徴ともいえ、私たちも無関心ではいられません。

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