閉じる

 アトピー性皮膚炎は小児にかぎらず成人にも増えており、よい治療法がほしいと多くの人が思っている。この7月、プロトピック軟膏0.03%が小児のアトピー性皮膚炎治療薬として承認された。0.1%軟膏がほとんど無制限といってもいいほどに成人のアトピー治療に使用されている現状に不安を感じていた矢先であった。しかし、この承認は新聞報道や週刊誌などで取り上げられたように問題をかかえた状況での承認である。この経過からわかってきたのは、成人より免疫系が未発達の小児に免疫抑制剤を使用した場合の安全性は確認されていないことである。免疫系が抑制されると、悪性腫瘍ができやすくなったり感染性の疾患にかかりやすくなる事は良く知られている。
 軟膏を塗った位で、悪性リンパ腫や皮膚がんができるのであろうか。この答えは、メーカーの行ったプロトピック軟膏の発ガン試験データを第三者機関が分析し公表されて、はじめて明らかになった(「正しい治療と薬の情報」(18(6号、7号)2003)、「薬のチェックは命のチェック」インターネット速報版No31)。0.03%軟膏を塗布したマウスの雌、雄は軟膏基剤のみ塗った場合に比べてそれぞれ28%、56%も発ガン率が増加しており(平均血中濃度は5.88ng/ml と7.9ng/ml)、プロトピック軟膏の平均血中濃度とガン発生率の増加は極めて高い相関性を示しているのである。しかし、人ではマウスとちがうから、血中濃度は高くならないのではないかとも考えられるので、臨床試験で得られている血中濃度を比較して見る。例えば成人632人が長期使用したヨーロッパ.タクロリムス軟膏研究グループの報告では(0.1%軟膏使用)、25%の人が1ng/ml以上を示し、1%は5ng/mlを示している。一部の人ではマウスでの発ガン濃度に近い値を示していたのです。インタビューフォームによれば、軟膏のバイオアベイラビリティーは(ラットで実験)、健常皮膚では4.7%、角質層を除去した皮膚では62.4%とあり、これは、損傷した皮膚からの吸収がかなり高くなることを示している。高い血中濃度がどれくらい持続すれば、悪性腫瘍ができるのかわからないが、はっきりしているのは、免疫抑制剤を使用している臓器移植者では皮膚がんや悪性リンパ腫が年と共に有意に増えており、例えば遍平上皮がんの発生確率は60-250倍も高くなるとの報告があることです。
 感染症に関しては、メーカーの行った毒性試験データを精査すると、0.1%軟膏群では細菌性心内膜炎等感染症の増加も認められた。さらに、米国での臨床試験(0.03%および0.1%)ではインフルエンザ様症状等の増加が報告されている。
 この詳細な分析データが医薬ビジランスセンターと医薬品・治療研究会から、「プロトピック軟膏0.03%小児用」承認の最終審議が行われた6月26日の薬事分科会のメンバーに送付された結果、条件つきの承認となった事は、報道された通りである。当会議でも、最終審議が行われる直前24日に、医薬品第一部会で再審議する必要性および審査資料の公開を求めた緊急の要望書を提出している。厚労省に承認の条件を確認したところ、『(1)「警告」欄に次ぎの項目を記載する(0.1%の警告欄にはない)「*小児のアトピー性皮膚炎の治療法に精通している医師のもとで行う。*マウス塗布試験で, リンパ腫の増加が認められている。本剤との関連性は明らかではないが人でも、外国でリンパ腫, 皮膚がんの発現が報告されている. これらの情報を説明して使用すること」(2)癌原性試験を追加する(3)患者に投薬記録を持たせる』の3項目である。厚労省は「癌原性試験は、やり直しではなくデーターの追加である」と言うが、試験の結果を待って再審査すべきであった。
 9月16日付けでネット上に0.03%小児用プロトピック軟膏の添付文書が掲載されたが、そこには異例と思われる「承認条件」の項があり、「1.長期使用例について, 免疫抑制作用に伴う有害事象の発現状況を調査すること. 2. がん原性に関し, 更なる知見を得ることを目的とした試験を実施し, その結果を報告すること」となっている。厚労省が悪性腫瘍の増加を懸念しているのは明らかである。悪性腫瘍ができるのは何年か先の事であり、今後ずっと使用者を追跡する必要がある。このことは、米国CDCが50年を経た今も流産防止剤DES(ジエチルスチルベステロール)の情報を収拾しているのを思い起こさせる。

閉じる