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● 問題の発端  
脳循環・代謝改善剤は、脳血管障害の後遺症である意欲低下、情緒障害を適応症とする薬で、臨床現場では認知症に対して広く使用され、90年代には莫大な売り上げを誇った薬である。  
 その脳循環・代謝改善剤5成分の再評価が行われた結果、98年5月、4成分15品目が承認整理(製薬会社による承認取下げ…事実上の承認取消)となった。プラセボ(偽薬)との比較臨床試験で有意差を示すことができなかったのが理由だった。
 プラセボに優る効果を示せないような薬が承認されたのは、承認審査に問題があったからだ。他にも多数の同種薬剤が承認されており、それらも再評価の必要がある。そのような方向性で要望書を出そう、誰か起案を、となったとき、水口事務局長は、弁護士なりたてで定例会議を見学していた私に「どうですか」と打診した。それを引き受けてしまったのが、私と薬害オンブズパースンとの関わりの始まりだった。

● 臨床試験の問題点
 根っからの文系人間である私に、医薬品の有効性についての科学的議論などわかるのか、不安があった。しかしやってみると、筋道立てて考えれば素人でも理解できるもので、法律学で培った論理的思考力が生かせると感じた。『全般改善度』という主観的で曖昧なものを主要評価項目とすることによる、評価のばらつきの危険性。有効性の有無が明確に現れる、プラセボとの比較臨床試験の回避。先に承認された同効薬との比較で「有意差がない」ことをもって「有効」とすることの誤り(脳循環・代謝改善剤の多くは、ホパテなど先行薬との比較試験で有効とされていた)。脳循環・代謝改善剤は、当時の日本の臨床試験の問題点を示す典型的な事例であり、医薬品評価の基本的な考え方を学ぶには格好の素材だった。
 一方で、厚生省(当時)は、『承認時点では有効であり、承認審査に誤りはない』という立場をとり、「承認時に認められた有用性は現在の解析方法でも検証でき」、その評価が変化したのは「医療環境が改善したため」であると強弁した。そのくせ、どのように解析すると検証できるのかといった具体的な説明はしない。役所はこういう詭弁を弄して責任逃れをするものなのだということも学んだ。

● 住民訴訟
 有効性のない薬を売りまくった製薬会社に利益をはき出させる手段はないかと、2件の住民訴訟(仙台市立病院が購入した代金の返還を求めるものと、国民健康保険から支払われた投薬料の返還を求めるもの)を提訴したが、いずれも敗訴し、市民の常識的感覚が通用しない行政訴訟の難しさを痛感させられた。しかし、仙台の住民訴訟で証人となった別府宏圀副代表から、尋問準備を通じて比較臨床試験の考え方をみっちり教えて頂いたことは、私の大きな財産となった。

● 脳循環・代謝改善剤のその後
 薬害オンブズパースンが、当初承認整理となった4成分以外の脳循環・代謝改善剤の再評価を求める要望書を提出(98年7月)した後、厚生省は、残る脳循環・代謝改善剤31成分を一斉に再評価指定した(99年1月)。そのうち、再評価で脳循環・代謝改善効能が生き残ったのは、わずか4成分だった。

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