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 薬害オンブズパースン会議ホームページ掲載の“注目情報”で、最も多く取り上げているのが「利益相反」に関する情報である。この情報を交えながら、以下、利益相反が医療現場を歪めている問題について考えてみたい。

 今やWHOでさえ製薬企業の影響下にある(注目情報2010/08/11)。日本でも、ディオバン事件により、研究者・医師と製薬企業とのつながりや虚偽・誇大広告が、医療行為に大きな影響を及ぼしていることが表面化した。現場においても、医師・薬剤師が入手する薬の情報が、あまりにも製薬企業側の情報に偏っており、処方がそれらに左右されているという問題がある。このことは、新薬が、販売と同時に率先して医療現場で処方される現状からも窺える。

 薬局も含め医療機関には、当然のように各社のMR(製薬企業の医薬情報担当者)が出入りし、パンフレットや文房具を手渡す状況がある。フランスのある調査結果によると、MRの訪問回数の多い医師達は、患者の診察時間が短く、MRにより販売促進された製品をより多く処方しており、より良い治療のためにMRの面会を拒否しようとプレスクリール誌は呼びかけている(同2014/01/09)。

 日本の実状については、ほとんどの医師がMRと会い(98%)、文房具を受け取り(96%)、試供品を受け取り(85%)、職場外での製薬企業スポンサーの勉強会に参加する(93%)という結果であった。医師はMRを重要な存在と考えており、自分の処方行動へ影響することはないと考え、低額な贈り物を受け取ることを否定しない傾向が明らかにされたとしている(文献1)。他方、薬剤師に関しては、文房具の受取り(88・5%)、「説明会で弁当を食べた」(56・6%)、「教科書やガイドラインなどを受け取った」、「講演会後の懇親会に出席した」などが上位を占めており、薬剤師においても、利益供与により、採用薬を検討する薬事委員会や新薬の評価に影響を与える可能性を指摘している(文献2)。

“注目情報”は、製薬企業との関わりにメスを入れる医師自らの積極的な動きも多数紹介している。国際的なNPOネットワークが「ノー・フリーランチ(無料の食事提供は辞退)」運動を呼びかけ、スペインではこれを受け「ノー・サンキュー」運動が展開され、医師たちの働きかけにより、いくつかの自治体政府が医師の生涯教育を援助することに同意した(注目情報2008/10/23)。また米国医学生連合(AMSA)は各医科大学の利益相反に関するポリシーの実践スコアを公表しており、ポリシーを持つ医科大学では卒業後の処方の適正化につながっているとしている(同2013/05/07)。

 この機関紙読者には、当会議HPの“注目情報”のチェックと、自分の足元から製薬企業との関わりを見直すことを呼びかけたい。各医療現場、教育現場での積極的な行動と、患者・消費者の側からの医療従事者への働きかけや要請を期待したい。

文献1 宮田靖志:「医師と製薬会社との関係に関するインターネット調査」医学教育、40(2)、95(2000)
文献2 藤井基博ら:「薬剤師の利益相反の可能性に関するアンケート調査」、33(2)、 67(2014)

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