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 現在わが国には治験以外の臨床試験に対して法的規制が存在しません。医学研究のうち人を対象とするものを臨床研究、臨床研究のうち介入を伴うものを臨床試験、臨床試験のうち新薬の承認のためのものを治験と定義することができます。治験は日本独自の用語で欧米には存在しません。つまり日本だけが、法的規制がある臨床試験と他の臨床試験(臨床研究)を分けているわけです。このため、日本の医療機関の多くは、同じ介入研究でも、法的規制を受ける治験は治験審査委員会(IRB)で、その他の臨床試験は倫理審査委員会で審議するというおかしな実態があります。そもそも、患者を対象とした臨床研究で無責任な研究を行うことは許されません。介入研究である臨床試験では、研究者に高い倫理観が求められます。

 ノバルティスの高血圧治療剤ディオバンの不正論文問題などを受け、厚労省と文科省は共同で人を対象とした医学研究の新倫理指針(案)を作成し、今秋には施行される予定です。しかし、倫理指針はあくまで指針であり法的拘束力はありません。一方、現在厚労省が開催している「臨床研究に係る制度の在り方に関する検討会」では、いまだに法制化するかどうか自体を議論しています。薬害肝炎検証委員会の「最終提言」に示された方向性を尊重し、法制化を前提として具体的な規制の内容について検討すべきです。欧米では臨床試験に対しては、罰則付きの法規制が行われています。

 規制が強化されると臨床試験が進まなくなるという反論があります。確かに行き過ぎた規制は避けるべきで、EUでは2001年に導入されたEU臨床試験指令により、EU各国ですべての臨床試験について、国際的な臨床試験の基準であるICH―GCPに準拠することになり、煩雑な手続きなどにより大学における臨床試験が減少しました。
 しかし、2013年12月に合意した新たな法律では、臨床研究を「臨床試験」「低介入試験」「非介入試験」として「低介入試験」(通常の診療と比較して被験者の安全にわずかのリスクしかもたらさないもの)に対しては、同意の免除や補償要件の変更を認めるなどの特異的な条項が設けられ、一律に厳しい規制がかからないよう運用されています。すべての臨床試験には臨床試験の質を保証する法的な規制が必要であり、試験結果が信頼できない臨床試験は規制強化で駆逐されるべきです。EUの低介入試験に対する合理的な対応などを参考にすれば、本当に必要な臨床試験が行える環境は作れるはずです。

 臨床試験の法制化は患者権利保護の強化や試験結果の透明性を高めることにもつながります。臨床試験の登録と結果の報告、公開を義務づけることによって、ネガティブな結果に終わった臨床試験の結果もオープンになり、いわゆる出版バイアスの防止につながります。
 日本の臨床試験を世界で通用させるためには、国際的な統一規格であるICH―GCPに準拠した臨床試験が不可欠です。臨床研究の不祥事の報道が相次ぎ国際的信頼問題となっているわが国は、国際的に通用する法規制の整備を早急に進める必要があります。

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