閉じる

 薬害イレッサ訴訟は、2013年4月、最高裁判決により被害者の敗訴が確定した。

 イレッサは、2002年7月、日本が世界で初めて承認した肺がん用抗がん剤である。企業や専門医の宣伝により「副作用が少ない画期的新薬」という期待が医療現場に広がったが、市販直後から間質性肺炎による副作用死が相次ぎ、承認から3ヶ月で緊急安全性情報が発出され,添付文書が改訂されて警告欄が設けられた(承認から3か月の間質性肺炎による副作用死は162名)。

 また、市販後第形衫彎音邯海砲茲辰同簗晋果を証明することを条件に承認されたが、承認条件の第形蟷邯海捻簗晋果の証明に失敗し、再審査でEGFR遺伝子変異陽性患者に適応が限定された。

 訴訟の最大の争点は、致死的間質性肺炎に関する警告が十分であったのかという点であった。この点について最高裁は添付文書に問題はないとした。しかし、それではなぜ添付文書改訂によって副作用死が減少したのか、説明できない。「医師の1〜2人が読み誤ったというのであればともかく、多くの医師が読み誤ったと考えられるときには、医師に対する情報提供の方法が不十分であったとみるべきである。」とする東京地裁判決の指摘こそ正しい。最高裁は、抗がん剤を扱う医師なら、宣伝などに惑わされることはないとするが、この点も実態からかけ離れている。最高裁判決は不当という他はない。

 しかしこの訴訟は、結果こそ敗訴であったが、訴訟中から既に多くの成果を挙げている。何より、医療現場でのイレッサの慎重な使用とインフォームド・コンセントの徹底を促した。迅速承認でこそ安全対策が重要であることを再認識させ、抗がん剤の承認に当たっては全例登録調査が義務づけられるようになった。薬害肝炎検証再発防止委員会の最終提言にも、この事件の教訓が反映されている。

 もっとも、課題も残されている。抗がん剤の副作用被害救済制度は未だに創設されていない。添付文書を承認審査の対象として国の責任を明確にすることもできていない。また、被害の発生から、使用ガイドラインの作成、訴訟対応に至るまで終始影を落としていた企業と医師の利益相反関係は、今も深刻である。開発段階の問題意識を市販後安全対策に引き継ぐために導入されたRMP制度の真価が問われるのはこれからである。

 薬害イレッサ事件は、薬害が起きる要因をすべて備えた事件と言っても過言ではない。薬害根絶のために、この事件の教訓を余すところなく生かすことは、無念の思いで逝った被害者に対する関係者の責務である。

閉じる