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 1 緊急事態法
 2012年4月27日、新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下「新型インフルエンザ対策法」)が制定されました。薬害オンブズパースンでは、2012年3月19日に、この法律の制定に反対する緊急声明を出しています。
 新型インフルエンザ対策法は、最大で入院患者200万人、死亡患者が4万人になるという被害想定のもとに制定された緊急事態法です。
 緊急事態法としては、国民保護法(防衛)、災害対策基本法(災害)がありますが、これと同様の位置づけにある法律で、非常事態宣言をして、国民の権利や生活を広く、強制力をもって制限することができると定められています。

2 過大な被害想定
 しかし、そもそも、この被害想定は、1918年に発生したスペイン
インフルエンザのデータをもとに推計したものです。当時と現在とでは、衛生環境や栄養状態などが明らかに異なることを無視した過大な被害想定といえます。

3 効果に疑問
 また、法律が規定する個別の対策の効果にも疑問があります。
例えば、水際対策としての港、空港での検疫と感染者の停留措置や、船舶・航空機の来航の制限要請の規定がありますが、交通機関の発達や潜伏期間、不顕性感染を考慮すれば、制限のデメリットを上回る効果は期待できません。実際2009年の新型インフルエンザの流行時に、水際対策は失敗しています。
 ワクチンの接種についての規定がありますが、感染防止に効果がないことは、周知のことです。流行防止効果、予防効果についても科学的なエビデンスはありません。
 学校、社会福祉施設その他の多数の者が利用する施設の使用制限についても、やはりデメリットを上回るメリットがあるとはいえません。

4 2009年の失敗の反省はどこへ
 2009年の新型インフルエンザ騒動を覚えていらっしゃいますか。2009年の新型インフルエンザは、季節性のインフルエンザと同程度の毒性でした。しかし、ワクチン不足への不安を煽るような報道が目立ち、政府は、薬事法の特例承認の規定を適用して大量のワクチンを緊急輸入したのです。このとき、当会議は、特例承認の規定を適用する要件を欠くということや、ワクチンが余るということを指摘して、特例承認に反対しました。しかし、政府は特例承認を強行、結果として大量のワクチンが余り廃棄処分されました。無駄な支出となったのは約853億円と公表されています。
 このときの失敗の総括も適切になされているとは言えないのです。

5 これから
 新型インフルエンザ対策法の制定については、日本弁護士連合会も2回にわたって反対する声明を出しています。人権制限を含む重要な法律であったにもかかわらず、マスメディアの関心、議員の関心が低く、国民的な議論はもとより、国会での審議も本当に簡単に終わってしまったことが残念です。

 今後は、法律を具体化する政令が定められていくことになるでしょう。過剰な人権制限が行われることがないよう、引き続き注視していきたいと思います。

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