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 薬害オンブズパースンでは、国内だけでなく、海外からもゲストを招いてシンポジウムを開催してきた。本号では、海外ゲストを迎えたシンポジウムの当時の記事を集めた特集号である。並べてみると見えてくるものがある。
 海外ゲストを招いた最初のシンポジウムは、1998年11月に開催した「喘息薬・ベロテックエロゾルは安全か」と題するシンポジウムであった。ベロッテック(フェノテロール)は、薬害オンブズパースンが1997年6月の発足時に最初に取上げ危険性を警告したテーマである。この薬が心臓死の危険を高めるということをニュージーランドで明らかにした医師グループの一人であるジュリアン・クレイン氏を招いた。ニュージーランドでは、彼らの働きかけにより保険適用薬からベロテックがはずれ、それとともに喘息患者の死亡が激減したが、日本でも販売量の減少と死亡者数の減少が連動した。シンポジウムの後、私達は被害者の医薬品副作用被害救済基金への申請をサポートする活動も行い、支給決定を得た。
 ところで、シンポジウムから10年を経た2007年、この医師グループの一人のニール・ピース氏が「Adverse Reactions The Fenoterol Story」(有害反応・フェノテロール・ストーリー)と題する本を出版した。そこでは「薬の副作用ではない。病気のせいだ。」と主張する製薬企業や製薬企業と深いつながりをもつ専門医たちからの執拗な妨害に抗して、フェノテロールの危険性を明かにするため奮闘した若い医師達の物語が語られていた。「因果関係の否定」と「利益相反」、古くて新しい、薬害の温床となる根深い問題である。
 製薬企業のマーケティング戦略、製薬企業と医師との経済的な関係が医薬品評価を歪めているという指摘は、2004年のチャールズ・メダワー氏の講演「暴走するくすり今、抗うつ剤で何が起きているのか?」、2006年のデーヴィッド・ヒーリー氏の講演「科学の外観をまとったグローバル・ビジネス」、そして、2008年の薬害オンブズパースン発足10周年記念シンポジウム「歪められる医薬品評価ー産官学連携への警鐘」におけるクリストフ・コップ氏とビーター・ルーリ氏の講演に共通したテーマであった。
 メダワー氏は、抗うつ剤SSRIを通して企業の宣伝が如何に医薬品の評価を歪めているのかを指摘し、ヒーリー氏は企業が薬を売るために新しい「病気」の概念を作りだして「患者」を増やし(メディカリゼーション)、オピニオンリーダーがこれに加担していると指摘した。また、コップ氏とルーリ氏は、「利益相反」の現状と規制のルールのあり方について指摘した。
 問題を解決するうえで、不可欠であるのは、情報公開によって透明性を高めることである。2002年、米国の消費者団体パブリックシチズンで情報公開請求訴訟を担当していたアマンダフロスト弁護士を招いてシンポジウム「薬の情報公開ー日米の比較を通じてー」を開催した。このシンポジウムの後、薬害オンブズパースンは、日本でも制定された情報公開法を使って薬の情報の公開についての挑戦を続けてきた。市販後の副作用症例報告に関する「医薬品副作用・感染症例票」の開示に関する成果を得たが、承認申請資料の開示の壁は厚い。
 もちろん、情報の公開がすべてを解決してくれるわけではない。多角的な制度設計が重要である。この点で、私たちの心を捉えたのは、シルビオ・ガラティーニ氏が2007年11月の日本薬剤疫学会学術総会の特別招聘講演とその中でガラティーニ氏が指摘した臨床試験のための公的基金の創設である。この学術総会(会長別府宏圀)は「医療消費者と薬剤疫学」をテーマに開催され、薬害オンブズパースンの多くのメンバーが発表者あるいはシンポジストとして参加した。本質的な問題提起を含む講演の紹介記事であるので、本特集号にあわせて再掲することとする。
 最後に、どのゲストも、温かく、人としての魅力に満ちていたということを一言付け加えておこうと思う。

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