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「何年続けられるかしら?」「とにかく3年はやってみないか?」
 薬害オンブズパースンの設立準備にかかわる薬害エイズ弁護団のメンバーの間で、そんな会話が交されてから10年がたった。月1回の定例会議は119回、公表した意見書等の数は117通、ホームページへのアクセス数は2004年7月のリニューアルから3年で約19万を超えた(2007年8月現在)。
 発足時、私達は「制度のあるべき姿について正論を言っても無駄だろう。個別薬のもつインパクトを頼みにゲリラ的に行こう。」と話し合い、個別薬を中心に問題提起をし、行動することを活動の中心に置くことにした。「取り上げるべき薬がそんなに続くのか?」と妙な心配もした。しかし、これは残念ながら杞憂だった。最初に取り上げたベロテックから、最近のイレッサ、タミフルまで検討薬には事欠かなかった。
 やがて、私達は、制度問題についても多くの意見書等を公表し、問題のある法案については薬害被害者と共にロビー活動をし、重要な大臣答弁を引き出すようにもなった。最近では、個別薬より制度問題についての意見書の方が多いくらいである。問題となる個別薬が減ったからか。そうではない。検討会等を組織してはシナリオどおりの報告書を得て、これを根拠に制度を変えるという手法で制度改変が次々実行されているからである。少し視野を広げて眺めれば、日米の合意と閣議決定が着々と実行されているにすぎないのだが、この分野の「抵抗勢力」が少なすぎるので、ゲリラの本分を忘れ、私たちが何か言わなくていいのかという焦燥感に動かされているのである。しかし、「迅速承認」を至上命題とし、規制の重点を承認前から市販後にシフトさせる制度改変の大きな流れは止まらない。
 この10年の間に、海外からのゲストを迎えてのシンポジウムも行ってきたが、そのうちの1人、デーヴィド・ヒーリー氏(精神医学者)は次のように指摘した。「科学的根拠に基づいた医療というが、臨床試験を行うか否かの決定や市場でどの適応を目指すか、どの雑誌に結果を載せるか、誰をオピニオンリーダーにするかといったことがみな、製薬企業の同じ営業部で決定されているということを我々は認識していない。」これは、私たちの国でも今そこにある危機なのである。
 「2000年も昔、医学と民主主義がともに古代ギリシャ及びその周辺を発祥の地として生まれたことはけっして偶然の結果ではなかった。医学と民主主義は、どちらも人類の発展とその基本的要求に深くかかわっており、いずれも自己決定権、個人と社会のあり方などに密接に関係する事柄だったからである。医学と民主主義はその精神において、互いにわかちがたく絡み合っており、その両者を基本的な意味で脅かすものが秘密主義である」というチャールズ・メダワー氏(NGO代表)の言葉に、医療関係者だけではなく、私のような法律家や市民が薬害防止活動を続けることの意味を見出す。
 どこまで行けるか、やってみようと思う。

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