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「自分を守る知恵」は、最近読んだ米国医療に関する翻訳本「沈黙の壁〜語られることのなかった医療ミスの実像」(日本評論社 2005年、2730円)の中の終章のタイトルである。いわく“医療ミスは起こりうるものだと理解しておくこと”“身体を修理するなら家を修理するのと同じくらいの知識をもつこと”等、10頁ほどに11の警告が記されている。
 現代社会は人々の飽くなき欲求を満たすべく、益々複雑怪奇な様相を呈してきている。それにもかかわらず、危険な状況の中で何も知らずに、他人に依存して生きている人々の何と多いことか。
 医療は薬や手術・検査など、どれをとっても元来危険なものである。そのうえ“過ちが常”の人間がつくり出し、操っている。
 冷静になって考えれば危険このうえないことを、大した情報もないまま、自らの選択と称して受け入れているのである。
 自分や愛する家族への害作用が現実化すると、遅ればせながら自分の身を守る知恵を多少なりとも得るが、他方で他人をうらみたくもなる。
 薬害エイズ事件の被害救済活動を弁護士として担当し、その教訓から医薬品被害の事前防止のための活動をしたいと考えて、8年前に開始した薬害オンブズパースン活動に参加した。こんなにも多くの“あぶない薬”を、大した疑問も抱かずに、販売している人たち、患者に投与している人たち、そして摂取している人たちがいることに驚きの連続だった。
 しかし、自分の服用している薬の有害作用に関心を抱いている人が、殊の外少ないのも正直な印象だ。
 有害情報を発信しても、関心をもってくれる人の多くは製薬企業と厚労省医薬局の仕事人たちで、消費者たる生活人の関心を引きつけることはとても難しいのも現実である。メディアも事件性、スキャンダル性がないと興味をもちにくいようである。
 問題になる前から“ある薬”に疑問を抱いて調査検討を始めるが、ボランティア団体の非力さから、検討中に社会問題化することも少なくない。そう言いながらこの原稿を書いているさなかにも、何ヶ月も当会議で議論してきた抗インフルエンザウイルス薬・タミフルが社会問題化してきた。
 医薬専門家たちよ“何よりも患者に害なすなかれ!”(ヒポクラテスの誓い)、医療消費者たちよ“もっともっと、自分を守る知恵を!”
 薬害オンブズパースン会議は非力もかえりみず、これからも薬の監視を続ける決意である。心ある方々との連帯がふくらむことを期待して。

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