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 2001年4月に情報公開法が施行されて、まもなく3年になろうとしている。同法は、「政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに、国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資すること」が目的とされるが、私が担当したいくつかの情報公開請求で見られた厚生労働省の対応は正反対で、こじつけでも理由を付けて、できるだけ情報を不開示にしようというものである。
 例えば、正露丸の副作用症例の開示を求めた際には、患者が特定されるという理由で症状や処置の経過などがすべて不開示とされた。たしかに患者のプライバシーは保護されなければならないが、よほど特殊な事情でもない限り、症状等が分かったからといって患者を特定することなどできないはずである。
 また、薬害肝炎で問題となっている血液製剤(フィブリノゲン)の納入先医療機関名の情報公開請求では、肝炎感染の危険性の高い治療(フィブリノゲン投与)を受けた患者に対し検査受診を呼びかけるため開示の必要があるという請求者の主張に対し、「開示された病院で治療を受けたことのない人が『自分は大丈夫』と誤解してしまうおそれがある」という珍妙な理由で不開示。
 訴訟になったイレッサの情報公開請求では、私たちが、「国民の生命・健康の保護のためには、臨床試験でイレッサと関係ないとされた有害事象症例の試験データ等の開示が必要」と主張したのに対し、厚労省は、他の抗がん剤の臨床試験における副作用発生率と、イレッサの自発報告による副作用発生率を比較して、「他の抗がん剤と比べて副作用発生率は高くないから、開示の必要性はない」と反論している。あれだけ多数の死者を出しながら、「他の抗がん剤と同程度だから良い」というのもひどいが、臨床試験と自発報告を比較して「発生率は同程度」というのはもっとひどい。臨床試験では副作用はほぼ全例把握されるのに対し、自発報告の場合、報告される副作用症例は実際に発生している症例の一部にとどまるから、発生率が低く出るのは当然。こういう明らかにインチキな主張が裁判所で行われているのである。
 イレッサ訴訟では、「副作用被害防止に必要な手は厚労省が打っているから、開示の必要はない」とも主張されている。しかし、医薬品の安全性監視はより多くの目で行う必要があり、メーカーや厚労省任せにしていたのでは到底不十分であることは、過去の薬害事件や今回のイレッサの例からも明らかだ。
 幸い、正露丸とフィブリノゲンのケースでは、異議申立で内閣府情報公開審査会から「開示が相当」との答申が出され、厚労省の主張は排斥されている。しかし、異議申立手続を経たために、いずれも開示までに1年以上かかっている。開示すべき情報は速やかに開示するという、当たり前だが実現していない原則を確立するために、私たちはさらにプレッシャーを強めていく必要がある。

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