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 サリドマイドは1958年に大日本製薬から「イソミン」の商品名で発売され、その後14商品が販売された催眠鎮静剤です。その催奇形性のために約50カ国で7000名以上に上る胎児が副作用被害にあい、日本では309名の認定患者を出した戦後薬害の原点といえる医薬品です。その薬が、また新たな薬として復活しようとしています。
 現在のところ、国内ではサリドマイド製剤は承認されていません。しかし、国内未承認薬を医師が個人輸入することは規制されておらず、サリドマイドも数年前から大量に輸入されて多くの患者に投与されています。厚生労働省の調べでは、平成13年度、計15万6600錠が個人輸入されていたことが分かっていますが、その使用実態等は把握されていません。現在日本でのサリドマイドの主な使用目的は、多発性骨髄腫患者さんへの治療目的の他、肺がん、胃がん、大腸がん、すい臓がん、乳がん、子宮がん、卵巣がん等さまざまながんへの治療のために使われています。
 海外では、米国で1998年7月にハンセン病治療薬として承認され、また各種がんに対する臨床試験が進行中(Phase 2または3)です。ただし、米国ではサリドマイドを処方する医師は登録医となってS.T.E.P.S.というサリドマイド教育と安全な処方のための厳格なシステムに従わなければなりません。
 薬害オンブズパースン会議では2002年6月にサリドマイド被害者の福祉財団「いしずえ」からの問題提起を受けてサリドマイドの有効性と安全性の問題等について検討し、サリドマイドの輸入および臨床使用の規制を求める緊急要望書を、2002年10月17日厚生労働大臣らに提出しました。
 日本におけるサリドマイド使用の現状の問題点は主に次の2点です。(1)未承認医薬品が医師の責任のみにおいて個人輸入され、多くの患者に投与されている。このような実態のもとでは副作用事故等が生じた場合の責任はすべて医師または患者に帰することになり、結果的には患者が自己責任の名のもとに大きな危険に曝されている。(2)サリドマイドは海外でもハンセン病の結節性紅斑治療薬として承認されているのみであり、多発性骨髄腫をはじめとする抗癌剤としての有効性は確立されていない。にもかかわらず、国内での臨床試験または臨床研究という手続きを経ずに多くの患者に使用されている。つまり副作用の正確な把握もなされず、臨床的有効性・安全性のデータも積み重ねられないまま、単なる人体実験が行われているに等しい。
 サリドマイド治療に一縷の望みを託すがん患者の自己決定権は配慮されるべきです。しかし、以上のような安易な輸入・臨床使用の実態は、決して患者の利益を追求することにはつながらないことを再確認すべきです。

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