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 子供の虫歯予防のため、水道水にフッ化物を添加するか否かの論争が日本で再び始まった。平成11年11月の日本歯科医学会による「フッ化物応用の総合的見解」が出て、12年の年末、厚生省が「上水道を管理する地方自治体がフッ化物添加を決定すれば、技術支援をする」という方針が新聞で報道されてからである。水道水フッ素化の賛成派は、「安全性と有効性はすでに実証ずみであり、米国では1945年からフッ化物添加をしており、WHOも推奨している」と主張している。水道水フッ素化は日本では3地域でかつて実施されたものの、現在中止されている。ヨーロッパ諸国でも同様で、現在、殆ど中止されている。フッ化物添加の反対派は、「住民に健康障害が起きる可能性があり、有効性は低く、虫歯予防はブラッシングなど、フッ化物を用いない方法によるべきだ」と主張している。公衆衛生上の一つの施策について、害益への見解がこれほど正反対に分かれているのは稀なことである。
 薬害オンブズパースン会議としては、この問題について医学班と法律班を作って検討することになった。法律班の検討結果は4月の例会ですでに鈴木代表から説明があった。水道法や厚生省令から、フッ化物添加の法律的な問題を指摘したものである。医学検討班の方は小生が主として進めたが、賛否両論の医学論文の数が非常に多く、残念ながらまとめるのが遅れ、現在、医薬品治療研究会(TIP)に検討を委託している。
 現在のところ小生の個人的な意見であるが、水道水へのフッ化物添加によって、斑状歯の増加、子供の骨肉腫や大人の癌の増加、若い母親から生まれるダウン症候群児の増加、腎不全の住民に骨フッ素症の増加などの可能性は否定できない。また子供の虫歯の頻度は1980年頃をピークとして順調に減少しており、ここにきてフッ化物添加を図る理由はなく、水道水全体にフッ化物を添加するのは効率の点からも、環境汚染の面からも問題が大きいと考える。しかし厚生科学研究費補助金を受けた「歯科疾患の予防技術・治療評価に関するフッ化物応用の総合的研究」(平成13年4月報告、27人の研究者が参加)の結論では、塗布・洗口を含めフッ化物応用を推進するという。賛成派は現在、盛んに集会を開いてフッ化物添加を宣伝し、その実施を図ろうとしている。自治体で議論が始まっているこの時期に、当会議がその議論のために薬害防止の立場から情報提供ができることを望んでいる。

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