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米国で医薬品処方指針(コンペンディウム)での利益相反の取り扱いが重要課題に

2008-12-24

[キーワード: 米国メディケア、医薬品コンペンディウム、利益相反]

 「医薬品コンペンディウム」とは、米国高齢者医療保障制度(メディケア) のがん治療で用いる医薬品を決める際などに、中心となる役割を果たす医薬品処方指針である。適応を承認された処方せん薬だけでなく、処方せん薬の適応外使用(オフラベル)、未承認薬の使用、非処方せん薬(店頭薬、OTC)の使用も含んでおり、収載リストは2300を超えている。
 民間医療保険でも保険を適用する医薬品の選定にこの医薬品処方指針を参考にしており、製薬メーカーにとって自社医薬品が処方指針に収載されるかどうかは、重大な意味をもっている。
 ピンクシート誌2008年10月27日号が、この「医薬品処方指針(コンペンディウム)」収載をめぐる利益相反問題をとりあげている。日本においても、近い将来、がん治療などの分野で、処方せん薬の適応外使用(オフラベル)などについての指針の必要性がより論議を呼ぶと考えられ、米国の「医薬品処方指針(コンペンディウム)」の動向は注目される。以下にその要旨を紹介する。

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 米国CMS(メディケア・メディケイド・サービスセンター、註1)は、4つの医薬品処方指針(コンペンディウム)を公式に認定している。米国ヘルスケアシステム薬剤師会が出版している「AHFS-DI(米国病院処方指針サービス-医薬品情報)」、医療情報提供企業トムソン・マイクロメデックスの「ドラッグ・デックス」、がん治療剤専門の「NCCN医薬品・生物製剤コンペンディウム」、医学系出版社のエルゼビアが出している「ゴールドスタンダード臨床薬理学」の4つである。
 このほど米国保健福祉省の医療研究・品質局(AHRQ)が、デューク医療政策研究センターに依頼していた、医薬品処方指針における利益相反問題の白書草案がまとまった。医療研究・品質局(AHRQ)は、ウェブサイトで草案に対する意見を公募した。CMSは、この白書の作成を求めたが、どうしてそうしたかの理由は明らかにしていない。しかし世間では、「ドラッグ・デックス」が医薬品処方指針として公認されたことが、その利益相反関係(製薬企業の金銭的影響)でとりわけ関心を惹いている。
米国ヘルスケアシステム薬剤師会は、この白書草案を是認しなかった。「ドラッグ・デックス」が製薬企業の影響を受けているとの判断だが、「AHFS-DI」にもEBM(根拠に基づく医療)財団を受け入れ窓口として、収載対象になる1適応外使用あたり5万ドル(約500万円)の審査費用を、収載希望企業から徴収しているという、独自の利益相反が問題となり得る状況がある。
 全般的に白書草案は、医薬品処方指針作成者が利益相反を開示すればそれでいいという段階にある。しかし、作成された医薬品処方指針はその中身がひとり歩きをするので、利益相反の開示だけでは、保険でまかなう医薬品での利益相反の管理の形式として不十分である。
                                
註1 メディケアは高齢者の、メディケイドは低所得者の、米国における医療保障制度
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 [追記] その後ピンクシート誌は2008年12月1日号、12月8日号で、医薬品処方指針(AHFS-DI)収載の審査費用を、米国ヘルスケアシステム薬剤師会が製薬企業から徴収していることについて、利益相反のリスクがあると白書案が問題にしていることに対し、薬剤師会が反論していることを記事にしている。
 薬剤師会は、「白書は製薬企業からの費用徴収(ユーザーフィー)が医薬品処方指針作成への圧力となると考えているが、収載希望の28%のみが収載され、後の72%は収載されていないという事実がそのことを明白に否定している。この処方指針の主要な利用者であるCMS(メディケア・メディケイド・サービスセンター)などから資金が出されないなかで、適応外使用を認めてほしいという企業が提出した資料を、短期間に審査し結果を出すには、資金が必要である。これは、FDA(食品医薬品庁)が医薬品販売承認審査費用をユーザーフィーで得ているのと同じである。FDAはユーザーフィーを出した製薬企業とコミュニケーションの疎通を常時図っているが、われわれ薬剤師会と専門委員会は申請者とコミュニケーションを持たない。誤解をもたれないように、薬剤師会とEBM(根拠に基づく医療)財団との契約も、適応あたりの金額でなく一定額とした」と反論している。
 また、ピンクシート誌はがん治療剤専門の「NCCN医薬品・生物製剤コンペンディウム」を作成している「全国広域がんネットワーク(NCCN)」が、トムソン・マイクロメデックスの「ドラッグ・デックス」が全部で9名のみで諮問委員会を形成しているのとは違って、われわれの処方指針は800名を越える専門家が44の疾病別パネル(専門委員会)を形成しているので、利益相反のバイアスは希釈されるとの意見を、医療研究・品質局(AHRQ)に提出したことも伝えている。 (T)

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